23章 25章 TOP



24章 途惑えば容赦なく




「んっ……」
気づけば私はベットで横になっていた。ベットがいつもと違う。
よく部屋を見渡すと、私の今いる部屋はそんなに家具が置かれてなかった。
でもベットのの横にはナイフや剣、槍が壁に掛けられていた。危ないんだけど。ナイフは五本もあるし。
配置はドアから入ってきて左隅にベット、右隅にクローゼットがある。
奥には窓。窓の近くには机とイス。机の右横に本棚。ここはどう考えても私の部屋じゃない。
「……」
あ、そうだ。昨日エジサトっていう町に来て。みんなとはぐれた後に切れて、来た道を戻ってただけなのに裏通りにいて。
えっと、あの後……中年とヤクザが死んで、私が殺されそうになって、目を開けたら私を殺そうとする人が。
あれ? でもそうなら、私は今いるのはあそこのはずだよね。誰かがここに運んでくれたのかな?
静かに音もなくドアが開いた。入ってきたのは昨日の黒コートの人。運んでくれたのは、この人かな?
「気が付いたか」
ただ心配したわけでもなく憮然とした声で言った。まぁ、知り合いってほどでもないから当然だけど。
「ここはどこなの?」
「裏通りの宿だ。昨日、何があった」
この人も強引だなあ。説明も何もなしに私に話せって。
裏通りの宿、って事はここの外にいればみんなと合流できるかな?
カースさんは拷問、って事は手紙は渡されてないよね。
もしかしたら合流できるかも知れない。
「中年の首が飛んだ後、私が殺されそうになって叫んだら、逆に殺そうとしたが死んじゃって。それから後のことは」
なんだか警察に掴まったみたいだな。それと何か重要な事を忘れてる気もする。
「確証はあるか」
「切り刻まれる音と叩かれる音が聞こえたから」
頭が重い。あれは夢じゃないよね。だから、私は本当に、人を。人の命を。
またなの? また、無自覚のうちに私は魔法で……人を殺めてしまったの?

「収穫はなしか」
そういえばこの人カースさんの居場所を言えみたいな事言ってなかった?
この人とカースさんってどういうつながりがあるんだろ? カースさんカースさんご隠居……じゃなくて。
あれ? ご隠居。さきの副将軍じゃなくて、隠居してる人。隠れてる人、隠されてる人。
「あ、カースさん」
思い出した! カースさんの居場所を教えてもらった。
「なんでお前がじいさんのことを」
「冥土の土産にって教えてくれたよ」
前置きは嬉しくなかったけど……うん、カースさんに鈴実たちのこと聞けば良いんよだきっと。
「何を聞いた。話せ」
相変わらず無機質な人だなぁ。しかも答えなきゃ即刻あの剣が首筋にきそうなのが洒落にならない。
「カースさんは死山のチェイスって魔物の屋敷にいるって。……あれ。魔物って、人間じゃないの?」
あの時は死ぬかと思って頭が混乱してたからよくわからなかったけど。チェイスがカースさんを、魔物が人を?
「……謝礼として宿代は払ってやろう。もう用はない、帰れ」
「いやだから、帰る場所が」
わからないだってば、と言おうとした所で続かなかった。
花火が炸裂したような音が部屋中に響いたから。

耳が痛い! 何なの一体? そんなに大きな音ってわけでもないのに頭にも回って来た。
「超音波だな。目を閉じていろ。閃光が来る」
耳がジンジンするよ……で、なに超音波? これが?
確かに頭がクラクラする。でもどうして普通に立ってれるのこの人。
待ってよ、閃光って光だよね。だったらサングラス!
確か私、持ってたよね。光奈から預かったあれを使わせてもらおう。
『ヒュイーン』
サングラスをかけてすぐにそんな音がした。それで黒コートの人はと見やれば目を閉じてる。対処が原始的すぎ!
あ、耳にピアスしてる。不良だ。私はこんな時でも悠長に構えていた。この眼鏡、私にはちょっと大きい。
『イイン……』
あ、もう止まったかな? 眼鏡もう外そっと。
サングラスに手をかけた所で腕を強く引っ張られた。それに驚いてついた情けない声に被る音。
シーツが破ける音がした。さっき、耳下で。え、まさか……いやそんな漫画みたいな展開があるわけ……あった!
上がっていた目線を戻すとベットに爪跡。まるで私が狙われたかのような感じ。
さっき腕引っ張られてなかったらもしかしたら。でも何も近くにはいない。
おかしい。その疑問は眼鏡を外したら、何なのかわかった。わかりたくなかったなー。
「死にたいのか」
「ぎゃあっ、何これーっ!?」
爪跡の犯人は般若のお面の顔をした奴。爪が鋭くとがってる。さっきのは私を狙った攻撃だったのやっぱり!?
般若顔が部屋じゅうにたくさんいる。ドキツイのを見ちゃった。心臓に悪すぎ!
「それは……まさかな。貸せ」
「へ? あっ」
あー、もうやっぱり強引だよ! 返事を待たずに借りないでよ。それにただの黒眼鏡だって。
サングラスを掛けて壁に掛けられてるナイフを無造作に投げた。何がしたいの、そこには何も。
「ギュルゥゥ」
「へ?」
三つの声が聞こえた、それと同時に部屋を埋め尽くしていた般若顔の数が減った。
残った三つの般若顔の眉間にナイフが刺さってる! 顔を歪ませる事なくやってのけてるこの人って一体?
「奴が魔物というのは事実のようだな」
魔物を従えることが出来るのは魔物だけだと呟いて黒コートの人はナイフを般若顔から引き抜いた。
怖くないの? 死んでるよね、あれ。
生きてるのより死んでるほうが凄い形相なのに。めちゃ怖いんだけど、元から怖いだけによりいっそう。
「平気なの?」
魔物を殺すっていうのは私には魔法があるからできるけど。よく表情を変えずにできるよね。
人にだって、さっきみたいに表情を変えずにやってたし。
「慣れた。魔物も悪人も殺さなければキリがつかない」
そんなこと……あっさりと言わないでよ。
じゃあ親がもし魔物だったりしたら殺すの? 悪人だったら?
「例え大切な人が悪だったりしても?」
悪人だとわかればすぐさっきみたいに手に掛けるの?
もしもそうなら、この人は大切な事を忘れているんだと思う。
「手遅れになる前に気づかなければ、意味がない」
「え?」
眼鏡を返してくれた時の表情が、少しだけさっきと違うように見えたのは気のせい?
「何にしろ早くここから出る事だ」
そう言い残してその人は部屋から出ていった。
部屋に残されたのは私と般若顔の魔物の死体ばかりのみ。
私はだれにも気づかれる事なく宿から出た。
疑問を抱えたまま。あの黒コートの人は過去に何かあったのかな。
あれは、お母さんがたまに見せる表情と似てた。
お母さんは複雑な表情をしても、そのあと苦笑いをして済ませてたけど。










死山麓の樹海から屋敷を見つけるまでの道のりに時間をくった。だが、辿りついてみれば呆気なかった。
突進してくるしかの能のない魔物の大群に幻聴や幻覚を発生させるだけの小ざかしい奴らの出迎えにあった。
その手の攻撃は幻視以外に通用しなかった。幻術対策として身につけている耳と首の魔術具がそれを防いだ。
昔から内部争いの多いこの国で生まれ育った者ならば当然一つは魔術具を身につける風習がある。
少なくとも人間であるならば、最低でも露店で売られている魔術具の呪いなど効かない程の幻術を用意する。


地下に下りるとすぐにこの屋敷の主を見つけた。やはりこいつも魔物。
「誰だ」
「名乗る義理はない」
こいつも雑魚。さっさと倒してじいさんを見つけるか。
「グォォ……ォ」
正体は化け狸か。だか所詮は魔物。うなり声をあげて頭上から飛びかかってくる。
俺は地を蹴り首筋めがけて剣を振った。鮮血と共に大きな頭が地に転がる。
「ォォォ……」
首を切落とせば息の根は止まった。
大した事もなかったな。あの程度の奴にじいさんが捕まるはずがない。
黒幕がいるのはわかっていたが。
チェイスと関わりを持つ奴でじいさんの上を行くようなのは奴以外にはいない。
ようやく尻尾をみせた。このままその尻尾を斬り落としてみせる。
『キィー』
倒れた狸の後ろにあった扉が開いた。何かが投げ込まれる。
爆弾? あの大きさならこの屋敷を吹き飛ばす事もできる。
『♪〜〜』
これは……火を呼びおこす呪歌。なるほど、そういう事か。
「あの方も、もったいない事を仰ったものだよなあ……あれは街の中心に落とすほうが面白いのに」
天井に逆さまにいる男、あいつも魔物か。
「おや、人間じゃないか。しかも、昨日こちらの者を二人惨殺した。危険な人間は殺してしまうか?」
喋るだけ喋って奴はゆらめきながら消えていった。
あれは幻視か? 転移であるのならば一瞬で残像が消えるはず。
まあいい、今はじいさんが優先だ。
呪歌が部屋一面に反響する。耳に支障は来さないが、爆弾に着火するまで数分の猶予しか残されていない。










あ、ここ昨日見た事のある場所だ。裏通りから表通りに戻ったみたい。
でも、宿を出た時は明るかったのにもう夕方だ。うーん、迷ってたみたい。
「やっぱりカースさんを見つけないといけないかなー」
みんなとの合流も重要だけど、あてがないし。それよりはわかってるカースさんを見つけるほうがいいよね。
『ガシッ』
「ひゃぁっ!?」
後からすごい力で引っ張られて、こけそうになった。だ、誰……? まさかあの黒コートの人じゃないよね。
おそるおそる振り返るといたのは痩せたおばあさんだった。
「おや。どこに行くのかぇ?」
びっ、くりしたぁ。しかも引っ張ってたの、このおばあさんだし。一体どこからそんな力が。
「あ、はい」
でも知らない人にそんなこと言われたの初めてだよ。あ、もしかして宿の人かな?
どう考えても私は一日寝込んでたみたいだったし。日は今高い位置に昇ってる。
看病してくれた人なのかな? だってあの人がしてくれたとは到底思えないし。
「どこへ?」
い、いきなりおばあさんの目がギラッと光ったような気が……中年のこけ脅しよりよっぽど怖い。
「死山っていう所です」
でも、今気づいたけど死山ってどんな山なのか知らない。
とにかくこのおばあさんから逃げたいから咄嗟にそう言ったのかも。
「修行かえ? あの山は危険だ、とても子供で生きて帰れるものは……ああ待て。居た」
え、いたんですか。思わず喉から出そうになったけどそれは我慢。
こうしておばあさんが私のことから意識を逸らしてるうちに一歩ずつ逃げよう。それが得策だよ。
でも十秒に一歩後退すること三回にして早くもそれは失敗した。腕をしわしわの手で掴まれたから。
「ならば地図とお守りをくれてやろうよ」
そういっておばあさんに地図と巾着みたいなものを渡された。私は言葉に詰まった。あのー?
修行に行くなんて行ってないのに行かされる事になりそう、っていうか絶対行かされる!
おばあさん、そんな顔してるし。うー、美紀。靖がぐちぐち言わないようにしてね。心の中でそう祈った。
「さーぁ、気がねなく修行に行って来い!」
『バシバシ!』
背中をおもいっきり叩かれて、私は死山へ向けて出発することに。
あー、思いつきで発言するとロクなことにはならないっていうけど。トホホ……じゃ、あの山を目指して。
「ああこら、バカモン! 死山は右の荒れた山!」
うっ。気をとり直して死山へ。早く帰ってこれますように。
でも地図はともかくお守りって、何かの役に立つの? それともホントに気休め?
神社のお守りは条件が多くてあんまり役に立たないけど、鈴実のお札は常時発動中だし。
ここのお守りはどうなんだろう。魔法が当たり前なら効果も即物的なのかな、気になるなあ。
おばあさんの視界にはいらない所まで行ったら開けてみよっと。気になる事は早めに解決しとくほうが良いよね!
でも、あのおばあさん視力が良さそうだからもっと先に進んでからにしよう。耳もよさそうだし。

てくてくひたすらに歩き続けて風景が街中から森に変わった。
あ、もうすぐ夜になる。困ったなぁ……明かりなんて持ってないよ。
雷の魔法を使ったら威力で周りの木が折れそうだし。真っ暗になる前に抜けないと!
でも抜けれるものかな。自分で宣言しておいてなんだけど、到底無理だよね……。
だって、いくら目を凝らしても先が見通せないもん。そんなに広い森林に夕方入るなんて無謀だよ。
「あれ?」
地面に白く光ってる石がある。誰か迷わないように落してたのかな。童話の兄妹みたいに。
これを辿って行ったら抜けれるかな? あーでも、お菓子の家はないにしても魔女みたいな存在はいそう。
『ズシン…』
「? さっき何か変な音が…」
地面の振動は左から。私は暗くてよくわからないけど大きいものを見た。あれはどう見ても人影じゃない。
もしかして魔物? だったら気づかれないように早くこの森を抜けなきゃ。
走ったら足音で気づかれるよね。でも歩いたって見つかる。木の陰に隠れて通りすぎるのを待たないと。
心臓がドクドクしたけどなんとか木陰まで行けた。あ、うろがある。頑張ればなんとか入れそうなくらいの窪みだ。
あの生物は、あとちょっとで私の目に映らない所まで行ってる。どうかあのまま行ってくれますように。

『…………』

「行った……はぁ」
まだ心臓がドクドクしてる。落ち着くまで暫く待とう。あれが引き返してくる可能性もあるし。
昼間ならともかく、夕暮れにもなると視界がきかなくなるし森の中で逃げきれる自信なんて私にはないし。
そもそも皆とはぐれてる今、一人であんなに大きい魔物に魔法をけしかける勇気なんて持てない。
避けることができるものはなるべく避けよう。うん、それがいい。
あー、誰でも良いから人に会いたいなぁ。それにきっと今頃心配してるよね、皆。
靖にからかわれそうだなぁ。鈴実にはしっかりしてよって叱られそうだし、美紀にはごめんって謝られそうだし。
レリは靖と一緒にからかいそうだな。キュラはよくわからないけど、真面目そうだから多分乗らないよね。
皆と早く再会したいよ。でも皆どこにいるかわからない。それを調べるために今カースさんのもとへ向かってるけど。
まさかこんな事になるなんて思ってもみなかった。鈴実やレリとはぐれた時はすぐ合流できたのに。
思えば道端を歩いてる人を掴まえて聞き込みをしたほうが良かったのかも。今さらだけど。
ここで引き返すとなると街に戻るのは深夜になっちゃう。走っても明るいうちには帰れない。
だからって先に進むのも、なあ。あるのは森と山ばかり。たとえ森を越えたところで登山が待ってるわけで。
進むのも戻るのも大変だけど、前進の場合は光る石があるからそれを辿っていれば少なくとも迷わないけど。
ちゃんとまた皆と会えるかな? それよりも先にカースさん、見つけられるかな。
森から見上げる空には月が見えない。そのことが余計に私を心細くさせた。




NEXT